12月25日、仙台高裁において大崎市放射能汚染廃棄物一斉焼却住民訴訟の判決言い渡しがありました。
結論から言えば、単に地裁の不当判決を踏襲、住民の訴えを棄却しただけでなく、地裁判決を補足強化し、あからさまに現状追認、原発推進、ひいては現体制擁護の判決だということです。本判決は放射能汚染廃棄物のクリアランスレベル(汚染物として取り扱わなくてよい基準)100Bq/kgを80倍にも緩め、8000Bq/kg以下であれば実質的に一般廃棄物と同様な取り扱いで良いとする汚染対処特措法を恒久化させるという意味を持ちます。8000Bq/kg以下であれば放射性廃棄物がいくらあろうと、それに取り囲まれた生活・被ばくは忍従せよという原発推進派にとって極めて都合の良い宣言文のような判決です。「被ばくはできるだけ少なく」から「ある程度の被ばくは我慢しろ」という大転換の先取り判決と言えます。
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以下、その要点を紹介します。
(1)焼却ありき、放射能ごみ処分のためには低線量被ばくは受忍すべきという、恐ろしい被ばく認識
高裁判決の原発推進、現体制擁護の偏った姿勢は、争点の一つであった人格権侵害(放射能ごみ焼却により、被ばくの健康生命に対する危険性に不安を抱え続けてしなければならないこと)についての判決文に端的に表れています。
判決文は「特措法(汚染対処特措法(筆者注)により基準を大幅に緩和し、8000Bq /kg以下の汚染廃棄物を一般の廃棄物と同様に焼却することを可能とした取り扱いに対し、原発事故の被害者というべき住民が不安を覚えることは当然」「本試験焼却により、・・セシウム137が相当程度排出される可能性は否定できず、これが拡散することによって周辺地域の住民に健康被害をもたらす抽象的な危険(太字は筆者、以下同じ)があることまでは否定し難い」などと一見、住民に寄り添ったかのような表現をしています。
しかし、その直後にあいまいな根拠(後述)で「現実に排出される放射性物質は、年1mSv以下という基準を下回ることが予見されており」「実際にも本件試験焼却前後の空間線量にも有意な差は見受けられなかったことからすれば、本試験焼却は、周辺住民に健康被害が発生する具体的な危険性を生じさせるものではなかった」と主張しています。いうまでもなく、低線量被ばくの危険性、特に内部被ばくの危険性はがんや白血病の発生率の上昇、乳幼児複雑心奇形の増加、乳児死亡率の上昇、循環器系疾患の増加、免疫低下による各種疾患の増加、体内の活性酸素増加による老化現象の促進などが報告されています。1年間の試験焼却での空間線量の評価だけで「具体的な危険性がない」というのは、放射線による急性障害が出ない限りは問題ないということと実質同じ意味になり、あまりにも乱暴な結論です。
その上で、判決文は、「控訴人らが主張する本件試験焼却による健康被害については・・様々な事情を比較衡量したとき、社会生活上受忍すべき限度を超えると言える具体的な危険性があるものであったとは言えない」として、平穏生活権を侵害していないと結論しています。極論すれば放射線被ばくによる急性障害が出ない限りは、被ばくは「受忍すべき」ということになります。
(2)汚染対処特措法により汚染廃棄物基準を従来の80倍に緩めた点を強調、一方で政府の同法施行3年後の見直しの不履行は不問に
高裁判決では、「認定事実」において汚染対処特措法が制定された経緯や、8000Bq/kg以下の汚染廃棄物は一般廃棄物と同様の扱いにしたことの仔細を「補正」として一審判決の該当記述を全面的に差し換えました。一方で、この汚染対処特措法の附則で、政府は施行後三年を経過した場合に検討を加え「所要の措置を講ずる」、「放射性物質により汚染された廃棄物、土壌等に関する規制の在り方その他の放射性物質に関する法制度の在り方について抜本的な見直しを含め検討を行い」「法制の整備その他の所要の措置を講ずる」とされているにもかかわらず、政府は何もやっていないことについての言及はありません。現状追認、行政擁護、政府与党をはじめとする原発推進派の意向を先取り、法の番人としての司法の役割を投げ捨てたものとしか言いようがありません。
(3)汚染廃棄物処理が進まない実態を仔細に説明、一般ごみとの「混焼」処理を強調、反対する原告らを言外に「非国民」扱い
高裁判決は「事実認定」において、(2)で述べた他、更に全面差し替え箇所があります。そこでは「汚染対処特措法および同施行規則に基づき8000Bq/kg以下の廃棄物については通常の処置方法でも、周辺住民、作業員ともに、その被ばく線量が・・年間1mSvを下回るものとして、市町村で安全に処理できるものという扱いになった」と強調しています。それにも関わらず、処理が進まない実態のなかで、宮城県が環境省の協力で一般ごみとの「混焼」による処理を決めた経緯を説明、それに全ての地方公共団体が同意したと説明しています。
一般ごみと「混焼」したからと言って、放射能は分解されず、飛灰には濃縮されて高濃度になり、バグフィルタからの微小なセシウム粉じん漏れや焼却灰の管理型処分場(一般ごみと同じ)への持ち込みに、住民が安全性への懸念を持つことは当然です。わざわざこうした経緯を仔細に差し替え説明することで、それに危惧を持ち裁判で争う住民は社会性のない、自己主張をする特殊な人間であるかのような印象を持たせます。
(4)根拠薄弱な安全性の主張、原告らのリネン吸着法や尿検査結果について無視
高裁判決は放射能ごみ焼却の安全性の部分でも「従来の基準とされていた100Bq/kgを大幅に変更したものであるから、・・控訴人らが、新たな不安を覚えることは当然」などと、一見、原告らに寄り添った表現をしている部分があります。しかしこれはリップサービスとも言えるもので、これに惑わされてはなりません。判決は原告らが提出した、リネン吸着法による3焼却炉(玉造、中央、東部各クリーンセンター:以下CC)周辺の秋・冬・夏の風向きによるセシウム微小粉じん漏れを示すデータ、玉造CC風下住民の尿検査による内部被ばくデータ、玉造CC稼働中の公定法(環境省が定めた排ガス測定法)の時間延長によるセシウム粉じん漏れデータ、玉造CCの老朽化による稼働停止後の、リネン吸着法結果の大幅低下、同住民の尿検査による内部被ばく状態の低下データ等を全て「焼却により不溶性の放射性物質が飛散していることや、飛散した放射性物質が人体に影響を及ぼす程度の濃度で飛散していることを適格に示す証拠はない」として一蹴しています。
一方で、判決が焼却の安全性の根拠としているのは、①環境省や国立環境研による福島県内外の焼却炉によるセシウム除去率調査や、②福島県の仮設焼却炉2箇所で調査した結果をまとめた国立環境研のいわゆる「大迫論文」に過ぎなせん。①はバグフィルタがセシウムを99.9%捕捉するということを客観的に裏付けるデータ等の添付、引用はありません。②は福島県内の仮設焼却炉2箇所(具体的施設不明)での電子式インパクタによる分析結果ですが、バグフィルタは、数百本もの沪布ユニットで構成されるそれ自体複雑なプラントともいえるものですから、設備の設計、建設時の施工状態、保守状態、老朽化等により、その設備能力は大きく異なることは自明であり、仮に②の大迫論文結果(その論文自体の問題点はここでは割愛する)が正しいとしても、それが、全てのバグフィルタの能力を保証するものでないことは自明です。実際に原告らが実施した玉造CCでの稼働中の公定法(時間延長による検出下限を大幅に低下させた)では、大迫論文の3倍(3号炉)から13倍(4号炉)の粉じん漏れを検出しました。
判決文が「本試験焼却は・・混焼による処理の安全性を確認するために実施したものである」(判決文10p 「5 本件指定基準及び本件試験焼却の安全性について」)というのであれば尚更、原告らが提出した数々の、調査結果について、真摯に検討すべきであることは明らかです。しかし、見米正裁判長らは、原告らが要求した証人尋問を頑なに拒み、一方で「適格に示す証拠はない」と結論していることは、最初から政府環境省方針や被告らを擁護する偏った姿勢であったことを明らかにしています。
特に30年という長い半減期を持つセシウム137が問題になっているのですから約1年間の試験焼却中と直後のデータだけでは決定的に不足です。それで良しとするのは、それこそ「希釈して薄めれば良い」という原発推進派の考え方そのものです。長半減期の核種は地球環境と人間を含む全ての動植物に蓄積し濃縮します。高裁裁判官の誰一人として、この程度のことに気付かず2020年から2年間の本焼却を経て、玉造CCが稼働停止になった後の変化まで調査した、原告の証拠資料に目を向けようともしない姿勢は批判されるべきものです。
※原告が裁判所に提出したバグフィルタ漏れ、周辺住民の尿検査結果等の一連の調査結果を報告集会でプレゼンしました。資料はこちらからDLできます。
(5)覚書・申し合わせについての形式的判断は基本的に変わらず
高裁判決は、地元住民組織と被告らが交わした覚書、申し合わせ違反について、詭弁とも言える地裁判決の決定を基本的に引き継ぎました。これは既に地裁判決で批判していますので、そちらをご覧ください。
このような不当な判決に、控訴人団・弁護団は速やかに上告の意思を表明した声明を出しました。
汚染水の海洋放出、汚染土の再利用、放射能ごみ焼却、汚染木を燃料とするバイオマス発電を止めるために、放射能バラマキを止めるために、引き続き、大崎放射能ごみ焼却住民訴訟に注目し、支援していきましょう。
2024.12.31
青木一政
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