都留文科大「環境社会学」講座で特別講義をしました

 7月11日、都留文科大で20代の若者に特別講義をしました。同大学の神長唯教授の「環境社会学 Ⅰ」講座の1コマ90分の授業を外部ゲスト講師として招聘いただきました。貴重な機会を与えてくださった神長唯教授にはあらためて感謝したいと思います。

 

 

 

 

 

 

講義のタイトルは「福島原発事故と市民科学」と決めましたが、講義内容を準備するにあたって大変苦労しました。受講者は10歳代後半から20歳代前半。しかも、同大学は主として教員養成に力を入れてきた公立大学で、全国から学生が集まります。13年前の東日本大震災と福島原発事故が発生した2011年にはおそらく未就学児から小学校2年生程度。福島原発事故そのものを知らない世代と言っていいでしょう。その生々しい実態を如何に感じてもらうか、それが大きな課題でした。

 そこで講義を大きく4部構成として、第1部「福島原発事故で起こったこと」、第2部「放射線被ばくとは何か、その危険性と健康リスク」、第3部「ちくりん舎の活動事例紹介」、第4部(まとめ)「ちくりん舎の13年間の活動から見えてきたこと」としました。

 第1部では筆者自身が事故直後の3月12日から3月14日頃までの福島原発事故関連のテレビニュースを大量に録画してありましたので、それから主要な部分を編集して10分間のビデオにする、という大変な作業をしました。これは学生にとって大きなインパクトを与えたようです。編集している筆者自身も、やはり当時の社会的大混乱を昨日のことのように思い出しました。第2部では、これまでのように「放射線とは何か」から始めるのではなく、原子核の数が違う同位体元素の説明やウラン同位体235に中性子が当たると核分裂を起こし、それが連鎖反応を起こすのが原爆、その核分裂を制御しながらエネルギーを取り出すのが原発、どちらもやっかいな放射性物質を生み出す、というところから話を準備しました。あらかじめキャンパス内から採取した土と南相馬の土を用意してサーベイメータで放射線を「音」で実感してもらうなど、学生達が眠くならない工夫もしました。

 

 

 

 

 

 講義の最後には「お題」と称して、①本日の講義でこれまでと異なる視点として身に付いた点、②今後原発利用は積極活用すべきか、維持すべきか、脱原発に向かうべきか、わからないもふくめて、その理由とともに書いて下さい、など4点の課題について15分間で考えを書いてもらいました。苦労の甲斐もあってか、福島原発事故が未だ収束しておらず、放射能汚染が依然として高い場所があること、若者の甲状腺がん多発の問題や、汚染水、汚染土など原発事故の後始末の問題が今でも社会に重くのしかかっていることは、ある程度理解してもらえたようです。

 講義の後に、かなり専門的な質問をしてきて、別紙に付けた「参考文献・推奨文献リスト」の該当するものを紹介したり、回答用紙で「ビキニ事件に関心を持っている、ビキニ、福島、水俣などの公害が共通している・・高校の社会科教員を目指しているが、2022年から高校でスタートした新しい科目である「歴史総合」で「科学」と「人間」、「近代」を今回の事例を通して問い直していきたい」と力強い決意を書いてくれた学生もいました。

 一方で、②の質問に関しては、脱原発とはっきり答えた人が約半数、積極活用、維持、分からないなどが半数程度だったことに、正直、愕然としました。「環境社会学」を選択して受講している人たちですから、気候危機などそれなりに環境問題、エネルギー問題には関心があるようです。その一方で、そのためにも「安全でクリーン」な原発が「温暖化対策として重要」だというイメージは、逆に温暖化問題を真剣に考えているからこその反応だったのかもしれません。短い時間の中で、原発の危険性、原発がCO2 削減につながらないことなど、説明できなかったこともあります。

福島原発事故からわずか13年。当時の経験を知る大人でも、「福島事故は終わった」「放射能被害は結局大したことはなかった」と考えている人が増えています。そういう意味では若者のこうした反応はむしろ当然かもしれません。

 政府・財界が進める原発推進キャンペーンは、福島原発事故を知らない若者をターゲットに、「安全でクリーンな原発」という気候危機対策の切り札として、新たな安全神話を浸透させ始めているようです。

若い世代に福島原発事故を如何に正しく継承していくか、新たな課題を突き付けられた思いです。

※写真を追加しました。2024/8/14

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