汚染土再利用を認めないよう放射線審議会へ要請文送付ー放射能拡散に反対する会

環境省は放射能汚染土再利用のため、省令改正、ガイドライン策定作業を進めています。

その一環として環境省は10月23日、放射線審議会に対し、汚染土再生利用に関する技術的基準について意見を求めるため、関連資料を提出しました。

 放射能拡散に反対する会は11月29日、放射線審議会に対し、本諮問を慎重に精査され、作業員・住民を放射線被ばくから守る重大な責務をまっとうされるよう要請しました。

放射線審議会要請はこちらからDLできます。

2024 年 11 月 29 日

放射線審議会

会長    甲斐    倫明    殿

放射能拡散に反対する会

放射能で汚染した土壌の利用と環境省による基準を認めないよう要請します

10 月 23 日付で環境大臣より貴審議会に「汚染対処特措法に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の策定について」以下のように諮問され、10 月 29 日の第 163 回総会で審議されました。次回総会でも引き続き審議され、答申が出されるものと思います。

諮問内容は①除去土壌の再利用に際し、年間被ばく線量が 1 ミリシーベルトを超えないよう、8000 ベクレル毎キログラム以下の除去土壌を使用すること、➁「除去土壌」の中間処理 分級処理、熱処理など)に係る排ガス又は排水の基準は、告示濃度比総和が 1 を超えないこととする、の 2 点とされています。

貴審議会は「放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針とし」、「関係行政機関の長は、放射線障害防止の技術的基準を定めようとするときは、審議会に諮問しなければならない。」  放射線障害防止の技術的基準に関する法律 3 条、6 条)と規定され、作業員・住民を放射線被ばくから守る重大な責務を負っています。

I          基本的な問題点

今回の環境大臣の諮問は、日本の放射能規制を大幅に緩めようとする暴挙です。「被ばくはできるだけ避ける」から「少しの被ばくはかまわない」への転換です。現在は、例えばキログラムあたり 100 ベクレル未満のセシウム 137 しか含まない物には放射能規制は適用されません クリアランス)が、今回の諮問は、実質的にクリアランス・レベルを 80 倍に緩和することになります。

作業員に線量計を持たせず、被ばく線量を測ろうともしません 「基本的考え方」)。放射能規制の下で剥ぎ取った土を、全国にバラまく時には線量すら測らないというのは、放射能規制の自殺行為です。放射線審議会がこの施策を容認してはなりません。

もう一つの重大な問題は放射性微小土壌粉じんの危険性が無視されていることです。「除去土壌の再生利用」のためには、中間貯蔵施設からの掘り起こし、再生資材化、ダンプトラックへの積載、輸送、使用先での荷下ろし、施工等、放射能汚染土が大気中に露出する作業が必然的に発生します。ところが今回の諮問には、吸入時に肺胞への沈着率が高く内部被ばくリスクが高いとされる放射性微小土壌粉じん PM2.5)の被ばく防止に関する対策が完全に欠落しています。10 トントラック200 万台分もの汚染土壌の再利用・終処処分において、上記放射性微小粉じん漏れを防ぐことは技術的・コスト的にとうてい不可能と考えます。貴審議会におきましてはこの点を、看過することなく厳正に判断し「除去土壌の再生利用」そのものを止めさせるよう要請します。

II       環境省が諮問している基準および諮問内容には、以下に挙げる看過できない問題があります。

そもそも放射線防護のためには放射能を拡散する「除去土壌」の利用はしないほうがよいのは明白です。過去の除染事業において度重なる事故が起きても、適切な対応がなされていません。環境省による基準を認めることなく、放射能で汚染した土壌の利用をやめさせるよう要請します。

なお、IAEA の終処報告書にも問題があるので抗議しました。抗議声明を添付します。

1.  放射能濃度の基準 8000 ベクレル毎キログラムは高すぎる

公衆の受ける線量が年間1ミリシーベルトを超えないものとして、「再生資材化した除去土壌」の放射能濃度の基準を 8000 ベクレル毎キログラム以下にするとしています 諮問第 1)。

ところが、諮問、「技術的基準」には「再生資材化した除去土壌」のベクレル毎キログラムから被ばく線量を推計する計算過程さえ「MCNP コードで計算」などと書かれ 29 頁)、市民にとってはブラックボックスです。

さらに、被ばく線量が過小評価されています。例えば除去土壌を盛土している際、「盛土中央での作業者」の被ばく線量は、厚さ 2.2 センチの鉄板で 4 割遮蔽されるとしていますが 「技術的基準」29 頁)、作業中に絶えず鉄板の上にいては盛土できません。このような場合、通常は被ばく線量を安全側に評価しますが、ここでは過小評価しています。

このまま諮問を認めるなら貴審議会は、「障害を及ぼすおそれのない線量以下とする」使命を放棄し、「被ばくはできるだけ避ける」から「被ばくしてもかまわない」という基本姿勢へと大転換させた責任を問われることとなります。

しかも、「技術的基準」によると、年間1ミリシーベルトさえ超える基準です。

2.「技術的基準」17、19 頁の被ばく線量は年間1ミリシーベルトを超える

「技術的基準」17、19 頁によれば、放射能濃度 8000 ベクレル毎キログラムの盛土中央での作業者や、災害時に覆土が全て流出したと仮定した場合の復旧作業者は、年間作業1000 時間の外部被ばくだけで 0.93 ミリシーベルトと、超えてはならない年間1ミリシーベルトぎりぎりになっています。それぞれ作業時の遮へい係数 0.6 がなければ、年間1ミリシーベルトを超えてしまいます。常に敷鉄板上で作業して遮へい係数 0.6 を保つなど、あり得るのでしょうか。

災害時の周辺居住者は、年間 0.75 ミリシーベルト、子どもは 0.97 ミリシーベルトとやはり年間 1 ミリシーベルトに近くなっています。盛土法尻からの距離 1mや遮蔽係数0.2 が保たれるのでしょうか。

3. 環境省資料間に整合性がなく、都合の悪いデータは貴審議会に提出されていません

「技術的基準」39 頁に道路盛土実証事業における作業者の被ばく線量が書かれています。盛土期間中の作業員は 1 日に平均 4.08~5.92 マイクロシーベルト被ばくしています。「盛土期間内」の被ばく線量から、「バックグラウンド線量」と称して「盛土期間外」の被ばく線量として、日被ばく線量 3.49~4.72 マイクロシーベルトを差し引き、年間 1 ミリシーベルト以下と称しています。

https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100005852?contents=NRA100005852-002-005#pdf=NRA100005852-002-005  

ところが、2023年9月5日の第3回(中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用方策検討ワーキンググループ
( WG)の資料 1-4 では、同じ中間貯蔵施設内での道路盛土実証事業について、毎時約 0.2 マイクロシーベルトだった盛土作業以前の空間線量率が、盛土作業中は毎時約 1.2 マイクロシーベルトに上昇したと報告しています。

https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/wg_230905.html

道路盛土の実証事業は中間貯蔵施設内で行われている 1 件だけで、どちらのデータも同じ実証事業に関するものであることは明白です。にもかかわらず、WG資料では盛土作業前の空間線量率は毎時 0.2 マイクロシーベルトなのに、諮問に別添の資料では、日被ばく線量は 3.49~4.72 マイクロシーベルトとされています。両方のデータが正しいなら、1 日に 20時間も働かなければなりません。

また、WG資料では盛土中の空間線量率は盛土作業前の 6 倍ですが、諮問別添資料ではほとんど差がありません。

環境省は、このように歴然と異なるデ-タが存在することに頬被りし、自らに都合の良いデータだけを貴審議会に提出しています。貴審議会が環境省の諮問を慎重に精査され、作業員・住民を放射線被ばくから守る重大な責務をまっとうされるよう要請します。

4. クリアランスレベルを実質的に 80 倍に緩和することになる

放射線障害の防止措置を必要としないもの クリアランス)として、原子炉等規制法令では年間 10 マイクロシーベルトや、それに基づいて放射性セシウムのクリアランス基準 100ベクレル毎キログラムが定められています。

ところが、8000 ベクレル毎キログラムの「再生資材」を「再生利用」する場合、近年頻発している大水害がさらに激甚化することも想定すると、「再生利用」は実質的にはクリアランスと同義の扱いになり、クリアランス基準が 80 倍緩和される結果になります。明らかに「放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一化」に反する事態です。

5.自然を放射能汚染し、人を被ばくさせる排ガス・排水基準(第 2 諮問)

「技術的基準」24,25 頁によれば 「除去土壌」の浸出試験でセシウム 137 の浸出はごくわずかとし、「除去土壌」の埋め立て処分に当たって「地下水汚染のおそれがない場合は  遮水シートなど地下水汚染防止は)不要」としています 23 頁)。

その一方で分級処理、熱処理など「除去土壌の中間処理」を行う場合、排ガス・排水が生じることを想定しており、セシウム 137 で大気中濃度 30 ベクレル毎立方メートル、水中濃度 90 ベクレル毎リットル以下は、排出を認めています。しかも排出口での濃度ではなく、放流水については「周辺の公共用水域の水中の・・・三月間の平均濃度」の基準であり、排ガスについても同様です。かくして、自然が年々放射能汚染され、その中で生きている私たちヒトも被ばくしていきます。貴審議会は「障害を及ぼすおそれのない線量以下とする」使命を果たすべきです。

以上

<参考資料>

「諮問」   https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100005852?contents=NRA100005852-002- 004#pdf=NRA100005852-002-004

「基本的考え方」 https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf

/investigative_commission_180601.pdf

「技術的基準」 https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100005852?contents=NRA100005852-002- 005#pdf=NRA100005852-002-005

「WG道路盛土資料 1-4」https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/wg_230905.html

 

convert this post to pdf.
This entry was posted in 00その他(全件), 放射能ばら撒き, 汚染土再利用. Bookmark the permalink.

コメントを残す