12月19日、第25回環境放射能研究会の論文集Proceedingsに「南相馬住民の尿検査による内部被曝調査と土壌粉塵吸入による影響」が掲載されました。
環境放射能研究会は主催:高エネルギー加速器研究 機構 放射線科学センタ,日本放射化学会 α放射体・環境放射能部会、共催:日本原子力学会 保健物理・環境科学部会、日本放射線影響学会,日本放射線安全管理学会 によるもので毎年3月に開催されています。そこでの口頭発表後、論文化、査読を経て掲載されるものです。
放射線防護に関わる「権威」ある研究会論集に本論文が掲載されたことの意味は大変大きいと考えております。12月17日の汚染土再利用反対の院内集会での小生のプレゼンもこの研究に基礎づけられています。
本論文の抜き刷り版はこちらからDLできます。
小論の「はじめに」および「謝辞」の部分をここに紹介します。
1.はじめに
福島原発事故を起因とする放射性Cs 摂取による内部被曝については、山菜、野生キノコ等極めて
高い食品についての情報は一般的に理解されており、コントロールも比較的容易であるが、土壌
粉塵の再浮遊と吸入摂取による影響がどの程度のものであるか、という点について実証的な研究
やデータはほとんどない。コントロールも難しく、慢性摂取状態になることが予想されることから、
詳細な調査が必要である。
我々は既に2014 年に避難指示が解除された南相馬市原町区西部地域の住民の尿検査による内部
被曝実態調査を2017 年から2021 年にかけて実施した。その結果、対照群である西日本
(兵庫県、福岡県)住民と比べ、明らかに内部被曝している実態を明らかにした[1]。しかしこの
調査では、その要因である食品摂取、大気中粉塵の吸入の程度などは明らかでなく課題として残
された。今回、同地域住民を対象に、食品中のCs 摂取および大気中粉塵と内部被曝影響の関係に
ついて調査を行った中で,大気中のCs 粉塵の吸入による影響が無視できないことが判明した。
福島原発事故から13 年が経過し、避難指示区域は既に全て解除され、帰還困難区域においても
特定復興再生拠点として避難指示の解除が始まっている。この解除基準は、「除染により放射線量
が概ね5 年以内に避難指示解除に支障ない基準以下に低減」というものであり[2]、事実上従来の
避難指示解除と同様に空間線量率で評価されている。一方で福島県の面積の70%は山林であり、
この山林の除染はほとんど行われていない。既に解除された地域においても宅地周辺の空間線量率
が再上昇している場所があり、周辺の山林等の影響によると考えられる。特定復興再生拠点は福島
第一原発周辺の高濃度に汚染された地域や放射性プルームの影響により高濃度に汚染された山林に
囲まれた場所であり、粉塵吸入による内部被曝について懸念が残る。避難指定解除は放射線被曝
影響を受けやすいとされる乳幼児、妊婦などを含め特段の制約なく生活をしてよいことを意味する。
本研究の成果は,こうした期間ありきの政策の妥当性に大きな疑問を呈するものとなった.
※下線は引用者による。
5.謝辞
本研究に当たり、南相馬市住民の検査や戸別訪問調査にあたり南相馬市在住の小澤洋一氏のご尽力
があったことを、ここに記して感謝申し上げます。論文化にあたりご助言いただいた鈴木譲東大
名誉教授に感謝いたします。また本研究は高木仁三郎市民科学基金、パタゴニア日本支社環境助成金
プログラムの助成を受けて実施できましたことを報告し感謝の意を表します。
Proceedings全体はこちらからDLできます。
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