※フクロウ通信第45号記事からの転載紹介です。
5月広島で開催予定のG7の前段として4月15、16日、札幌において主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が開かれました。そもそも、米を筆頭に膨大なエネルギー消費大国、気候危機に最も重い責任を持つG7の環境大臣会合そのものが「やっているふり」のポーズだけで、あわよくば、環境対策を自らの経済的・政治的利益に誘導しようとするものであり、直面する気候危機への根本的対策などは期待できるものではありません。そのような中においても、岸田政権の今回のG7環境相会合への目論見は最も破廉恥なものでした。岸田政権はその環境相共同声明に、福島原発事故による汚染水の海洋放出、汚染土の再利用について「その進展を歓迎する」との文言を入れ、「放射能ばらまき」ともいえる自らの政策にG7からのお墨付きを得ようと画策していたのです。
「処理水の放出を歓迎することはできない」-ドイツ・レムケ環境相の強烈な一撃
会合終了後の記者会見で岸田政権の目論見はレムケ環境相の強烈な反撃で脆くも崩れ去りました。記者会見にはイタリア、ドイツの環境大臣と並んで、何故か経産大臣の西村康捻氏が並び、最初に発言しました。西村経産相は「処理水の海洋放出を含む廃炉の着実な進展、そして、科学的根拠に基づく我が国の透明性のある取り組みが歓迎される」と述べたのです。その直後、間髪を入れずドイツ・レムケ環境大臣が「原発事故後、東京電力や日本政府が努力してきたことには敬意を払う」としながらも、「処理水の放出を歓迎するということはできない」と明言したのです。
西村経産相は会見後「私のちょっと言い間違えで」と釈明しましたが、「取り組みが歓迎される」という微妙な言い回しが、言い間違えと言えるのか、にわかには信じがたいところです。レムケ環境相の即座の的確な主張がなければ、西村経産相の狙いがそのままメディアに垂れ流された可能性すら考えられます。
韓国ハンギョレ新聞キム・ソヨン特派員はこの点について、鋭く切り込んでいます。「ところで、これは本当に言い間違いなのだろうか。日本政府は議長国の地位を活用し、この声明文に「処理水放出歓迎」の文言を入れるために、執拗に準備してきた。G7が歓迎したということを盾に、韓国や中国などの周辺国と日本国内の反対世論を突破するつもりだった。この文言を草案に入れ、自国のメディアにこれを裏で流しつつ(朝日新聞2月22日付1面報道)、2カ月以上にわたり各国を説得したが、最終的には失敗したのだ。」 (2023年4月18日付ハンギョレ新聞)
住民を守らない―日本政府の原発事故対策が今後のスタンダードにされる
2月22日付朝日新聞報道により大変な危機感を抱きました。気候危機対策としてCO2を発生させないクリーンなエネルギー源として、日本を始めとして、各国で再び原発推進へと方向転換をはかる動きがあります。福島原発事故以降の日本政府の事故対応は一言で言えば、住民を守らない、放射線被害はたいしたことではない、という無茶苦茶なものでした。原子力推進を前提とした、国際原子力ムラの放射線防護機関であるICRPの勧告すら平然と無視し、住民を被ばくさせ、環境を破壊し、原発事故の後始末でも、有り余る復興予算で原子力関連企業、ゼネコンを儲けさせてきたことは明らかです。原子力推進に伴い、原発事故のリスクは当然高まります。G7でこのような日本政府の「放射能ばらまき」政策が合意文書に残されてしまえば、日本政府のやり方が、今後の原発事故処理のスタンダードとされてしまう可能性があります。
何とか、札幌でカウンター行動を実現できないか
この報道に接し、何とか、この合意を阻止できないものか。どうしたらこの流れにブレーキをかけられるか、連日、その対応を模索しました。そのような中で、福島の市民を中心とした「これ以上海を汚すな!市民会議」の一人で札幌近郊に在住している方が、15,16日当日に札幌でスタンディング・アピールを計画しているとの情報が入りました。札幌に集まることはかなり困難なことです。本州からはもちろん、北海道は広いので、北海道在住者とは言え札幌に駆け付けることは大変困難です。それでも、G7環境相会合の開かれる現地でアピールすることの意義は大きい。何としても実現したいとの思いで動き始めました。
行動を計画していた地脇美和さんと連絡を取り合い、日程や時間を調整し、「札幌G7 気候・エネルギー・環境相会合-カウンター・スタンディング・アピール行動の呼びかけ」という文書を4月4日に発送しました。特定の組織や団体への呼びかけではなく、この重大な問題に賛同し参加のできる方へ個人として主体的に参加して欲しいとの呼びかけです。幸いこれまでの活動の中で連携が出来ていた「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」や「原発廃炉金属の再利用を監視する市民の会(北海道・室蘭)」、札幌の市民測定室「はかーる札幌」などで活動する個人から前向きの反応がありました。
海外メディア向けの英語の横断幕の準備では「ちくりん舎カフェ」に参加された、米国在住のレイチェル・クラークさんからインパクトのある英文表現や、イラストなどで有効なアドヴァイスをいただきました。様々な困難を乗り越えて、これまでの繋がりが一段と広がり深い協力関係に結びついていきました。
15、16日に延べ20人くらいの人々が参加し、横断幕、プラカード、リレートークなどで連日5時間近く、やや無謀ともいえるスタンディング・アピールを実現することができました。
トンガ、フィジー、オーストラリアからの代表との交流も
16日は悪天候で雨脚が弱くなった時間帯を見計らいながらの行動となりました。昼過ぎには前日アジア太平洋資料センター(PARC)他の共催で開かれた講演会にゲスト参加していた、トンガ、フィジー、オーストラリアの代表の皆さんとのミニ交流会も行われました。トンガではすでに気候変動で海面上昇により村を内陸に移転しなければならないような事態になっている。それでも原発はその対策にはならない。まして汚染水の海洋放出もとんでもないと話していました。フィジーでは深海底のレアメタルの採掘がカナダの会社によって進められているそうです。目的は電気自動車用バッテリーに使われる鉱物。これも巨大な海底の鉱床の採掘で、結局は自然破壊につながる。ウクライナ戦争によるロシアへの経済制裁の影響で、新たな資源開発として南太平洋の海底が狙われているということだそうです。気候変動対策と脱原発とそして戦争反対は一体のものだという話が印象に残りました。
世界的な規模で広がる汚染水放出反対の声
これ以上海を汚すな!市民会議の呼びかけで4月13日に国内外で汚染水放出に反対する一斉スタンディング・アピール行動が呼びかけられました。行動は国内各地に留まらず、韓国、フィリピン、カナダ、ソロモン諸島、マーシャル諸島、フィジー、ベトナム、米国などに広まっています。また行動は13日に留まらず国内外各地で継続しています。さらに4月10日には5月19-21日G7サミットに向け「原発推進反対、汚染水・汚染土拡散を止めよ」との国際署名(Change.org)も立ち上がっています。
冒頭のドイツ・レムケ環境相の発言も、こうした世界に広がる声を背景としていると言えるでしょう。また、これまで、汚染水の放出に内外の注目が集まっていましたが、今回の一連の動きの中で、汚染土の再利用、福島原発事故以降の、汚染物を薄めてばら撒くという日本のやり方そのものに注目と反対の声が集まったことも大きな前進です。
札幌でのわずか2日間、延べ20名程度の活動でしたが、国内外への広がりの一環として大きな意味を持たせることができたと考えています。引き続き、5月サミット本番に向け、原発推進反対、放射能のばらまき反対の声を国際的に広めていきましょう。
青木一政
※この報告の後、さらに環境省のHPで共同声明の和訳が環境省の立場に都合よく改ざん(2カ所)されていることが明らかになりました。詳しくは「放射線被ばくを学習する会」のHPをご覧ください。
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