事故から5年半―帰還困難区域の深刻な汚染状況

2016年10月に帰還困難区域内の調査を行なう機会がありました。福島県浪江町津島地区から避難されている方からの依頼があり、ご本人が自宅へ訪れる機会に同行させていただき周辺の調査を行ないました。

原発事故後極めて高線量のため通常は立ち入りが禁止されている帰還困難区域-浪江町津島地区は事故後5年半経過した現在でも凄まじい放射線量です。

しかし、政府は今年8月にこの帰還困難区域も今後5年間で避難指定解除を目指して「復興拠点」の整備を行う方針を発表しています。

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すでに除染の限界はあきらかです。またこの不十分な効果しか挙げられない除染でさえ、そこから生じた大量の廃棄物の処分が深刻な問題となっています。福島県だけでなく、周辺の県においてもその最終処分地の解決の目処は立っていません。このような状況で、新たに帰還困難区域で除染を行って避難指定解除を目指すというのは全く異常です。この現状を明らかにするために、空間線量率、土壌汚染分析などを行ないました。

また今回の調査のもう一つ狙いとして事故直後に家屋内に侵入したセシウムの濃度を屋内に堆積したホコリから推定することがあります。事故直後から家屋を締め切り、その後避難していて閉め切られた屋内にどの程度の放射能が侵入したかを測定することは大きな意味を持ちます。政府は原発の過酷事故の場合に屋内退避を計画しています。しかし今回の調査結果からは、築後8か月の高気密住宅の屋内でさえ高濃度のセシウムが侵入していることが明らかになりました。このことはいったん原発の過酷事故が起これば周辺の住民は被ばくを避けられないことを示しています。

ちくりん舎の学習会で使用した資料をもとに調査報告をまとめましたので紹介します。

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以下、資料の要点です。

5年半後の浪江町津島K氏宅周辺の汚染状況

・浪江町津島K氏宅周辺では椚平馬場牧場付近で4.34μSv/h、 大柿ダムまんまや前で5.98~11.98μSv/h、椚平B氏宅入口で4.77μSv/h(いずれも地上1m)である。屋外で24時間滞在を仮定すると38~105mSv/年間の被ばく量に相当する極めて高い線量である。

・椚平馬場牧場付近では地上1cmで3.51μSv/h、1mで4.34μSv/hと線量率の逆転状況がある。これは地表面(道路側溝)の汚染よりも周辺の森林からのガンマ線の影響が大きいことを示しており、道路、側溝、住宅周辺の除染のみでは線量低下は期待できないことを示している。

・まんまや前駐車場には黒い物質が存在し、サーベイメータは振り切れ(地上1cm)30μSv/h以上であった。

・イトヒバの木の根元の土壌汚染は286万Bq/平方メートル(換算係数65)に相当し、チェルノブイリ事故の基準では「特別規制ゾーン」に相当する。(K氏宅は2011年12月~2012年2月に国によるモデル除染実施済みである)

・K氏宅の屋内リビング、寝室では0.36~0.55μSv/h(1m高)、0.27~0.40μSv/h(1cm高)であった。1cm高より1m高の方が測定値が高い。これは床や床下からの影響よりも屋根や周辺の森林などからの影響を受けていると考えられる。

・K氏宅周辺と室内の空間線量をもとに文科省が被ばく計算に用いている屋外8時間、屋内16時間滞在を仮定して被ばく量を計算すると年間21mSv程度の被ばく量となる。(屋内0.55μSv/h、屋外6.0μSv/hで計算)

 屋内に侵入した空気中の放射能推定結果についての考察

・天板4か所のホコリからはいずれも高濃度のセシウム134,137を検出した。この汚染は事故直後に屋内に侵入したものが大部分であると想定できる。再浮遊がないものとして計算すると、屋内に侵入したセシウム濃度は10~490Bq/m3(2011年3月時点推定)である。

・この家屋は2016年3月12日の屋内退避指示により、締め切り換気扇も停止している。それでもこれほど高濃度のセシウムが屋内に侵入していることが明らかになった(K氏宅は事故8か月前に新築した高気密住宅である)。原発の過酷事故後の「屋内退避」は、現実には吸引による内部被ばくを避けられないことを示している。

・今回の4か所の測定結果の推定は大きくばらついている。面積当たりで9倍、体積当たりでは約50倍の差がある。

・ばらつきの大きな要因として拭き取り効率の違いが想定される。スチール天板と冷蔵庫は塗装した鉄板であるが、土間板とリビングテーブルは木材である。 ATOMTICAによると、スミヤ法の拭き取り効率では非浸透性材料で50%、浸透性材料で5%となっており、10倍程度の違いはあり得る。http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-06-04

・その他の要因として、屋内空気の対流や風の流れによる再拡散と移動の可能性が考えられる。今後さらに同様なデータを収集して実態を明らかにしてゆく必要がある。

結論

・事故後5年6ヶ月経過した現在においても、今回調査した地域の汚染状況は極めて高い。今後もセシウム137の汚染が長く続く。

・空間線量は森林汚染からの影響が大きく除染は極めて困難である。

・これまでの各地での除染結果から、すでに除染の限界は明らかである。また不十分な効果しか挙げられない除染による廃棄物ですら最終処分地の解決の目処は立っていない。

・帰還困難区域に「復興拠点」を設けて除染や指定解除をする政府の政策は無意味である。除染や「復興」に当てる財源は被害者への賠償と生活再建に回すべきである。

・原発過酷事故後の「屋内退避」は屋内に侵入するセシウムをはじめとして希ガスや微粒子状の放射性物質の吸引による内部被ばくを避けられない。

・一たび原発事故が起これば広い範囲での住民の被ばくと地域の長期間にわたる深刻な汚染は避けられない。原発再稼働を止め直ちに脱原発の方向へ政策を改めるべきである。

 

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