中間貯蔵施設見学ツアー報告(その3)

中間貯蔵施設見学ツアー報告(最終回)です。

〇東日本大震災・原子力災害伝承館

ツアー2日目の午後は福島県が2020年9月20日に双葉町にオープンした東日本大震災・原子力災害伝承館を訪問しました。伝承館の基本理念には以下のようなことが記載されています。

01原子力災害と復興の記録や教訓の「未来への継承・世界との共有」
02福島にしかない原子力災害の経験や教訓を生かす「防災・減災」
03福島に心を寄せる人々や団体と連携し、地域コミュニティや文化・伝統の再生、復興を担う人材の育成等による「復興の加速化への寄与」

館長は長崎大学の高村昇教授、あの「ニコニコしていれば放射能はやってこない」と講演した山下俊一教授の弟子にあたる方です。

高村昇教授は福島県健康管理検討会の委員もしています。検討委員会では福島県の子どもの甲状腺がん多発についてチェルノブイリでは5歳以下(事故当時)の幼児から甲状腺がんが多く発見されたが、福島では5歳以下(事故当時)の幼児からの発生は見られない、としてグラフまで示して、福島県の甲状腺がんは放射線影響とは考えられないとの説明をしました。ところが、チェルノブイリのデータは事故発生から10年後のデータ、福島のデータは事故発生から5年後のデータでした。つまり、チェルノブイリで5歳以下の幼児の甲状腺がんが発生したのは事故後10年程度経ってからの現象です。比較するらなら同じ土俵で比較しなければなりません。福島原発事故から10年、福島県でも事故当時5歳や4歳の子どもからの甲状腺がんが発見され始めています。高村昇教授はこのことをどう釈明をされるのでしょうか。

館長の高村昇長崎大教授(写真は伝承館のHPより)

このような立場の方が「原子力災害の経験や教訓を生かす」とうたう伝承館の館長にふさわしい方なのでしょうか。じっくり伝承館の内容を見ていかなければなりません。

〇入館最初に見るビデオ

入館者は最初に円形のホールで10分程度のビデオ映像を見ます。西田敏行とおぼしき声のアニメキャラクターが説明します。福島原発は日本の高度成長期、莫大な電力の増加が必要な首都圏に電気を送り続け経済発展を支えてきた、と強調されます。そして2011年3月11日の地震と津波で原発事故が起こりました、と紹介されます。まるで福島原発事故は天災であったかのような印象です。冒頭で紹介した理念で「経験や教訓の伝承」が強調されますが、教訓を引き出すためには反省がなければなりません。「反省」という文字やその内容を表す展示は、私の見た印象では無かったように思います。

〇開館後の批判に応えた「原子力明るい未来のエネルギー」の看板実物展示

会館直後から伝承館の展示に対してさまざまな批判が寄せられました。その象徴的なものが双葉町に掲げられていた「原子力明るい未来のエネルギー」看板です。館内では写真展示はありますが、「実物を展示すべきだ」との声が多く寄せられました。それに応える形で伝承館では実物展示も行ったとの報道がありました。今回、それがどのように展示されているか、大きな関心がありました。

確かに実物は展示されていました。建物正面から右側の建物にそって一番奥のところに。正面からは実物は全く見えません。実物がどこにあるか探して数分歩いて行かないと見えないところです。2回の展示スペースからドアを開けて階段を下りればアプローチできますが、ドアは施錠されており、案内も無く、普通に展示順路を辿っているかぎり絶対に行きつけない場所です。「原子力明るい未来のエネルギー」という標語看板は、「果たして本当に原子力は明るい未来のエネルギー」だったのか、反省抜きには見ることはできませんし、だからこそ展示の要望も多かったのでしょう。伝承館の姿勢を象徴するような「発見」でした。

〇見学ノートに見る若い人、お年寄りの意見

一通り見学が終わったあと、出口付近に何冊もの自由に記入できる見学ノートがおいてありました。パラパラと眺めてみました。小学生、中学生の感想は「東日本大震災が大変なことだったのがよく分かった」「みんなが協力して支えあうことが大事だと思った」「みんなの力で復興できてよかった」などの書き込みが目立ちます。70歳の男性の書き込みで「東電のことが何も出てこないのは許せない、東電が憎い!」というのや、50代の方の「原発反対!」というのがありました。

この2つの傾向の書き込みが、現在の伝承館の実態をよく表しているように思います。福島県は東日本大震災に続く原発事故の被害者です。伝承館が実際の経験をほとんど持たない子どもたちへの洗脳展示にならないよう、しっかりとした反省、責任追及をも含めた展示内容になるようすべきだと考えます。

〇水素エネルギー製造プラントを見てから帰路へ

伝承館見学のあと、浪江町にある水素エネルギー製造プラント(福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field (FH2R))の外観を見てから帰路につきました。太陽光パネルで生産した電力で水を電気分解して水素を製造するプラントです。水素は燃焼しても水になるのでクリーンなエネルギーだと宣伝されます。しかし、水素を作るためには水を電気分解したりメタンガスを原料に水素とCo2に分解して作ります。どちらも電力は必要ですし製造の過程でCo2を発生することになるのです。燃やすところだけを捉えて「クリーン」だとするのは誤りです。

再生エネルギー推進は重要ですが、現在の大量生産、大量消費、大量廃棄社会と膨大なエネルギー消費をそのままにした進めかたは新たな問題を引き起こします。

「原子力明るい未来のエネルギー」が安直に「水素明るい未来のエネルギー」にすり替えられてしまう危機感を感じながら帰路につきました。

 

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