その1に続き、「ばらまき体感ツアー」2日目の報告です。2日目はいわき湯本の宿を早めに出て、三春町にある環境創造センターへ向かいました。環境創造センターは福島県が2016年に開設したものです。HPでの説明では、「県民の皆さまが将来にわたり安心して生活できる環境の回復・創造に向け、モニタリング、調査研究、情報収集・発信、教育・研修・交流を行うための総合的な拠点」となっています。ここは4つの機能を備えた大きな施設で、ツアー2日目の午前中は全てこちらでの見学や会議を行いました。
放射線は怖くない!?
福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)で「心の除染」ができるかも?
磐越自動車道の船引三春ICの近くの工業団地の一角に巨大なスペースに環境創造センターがあります。ここの交流棟は無料で誰でも入れる見学施設となっています。おそらく小中学生、高校生など若い人を意識した体験型の教育施設のようなものでしょうか。
事故直後の福島第一原発のジオラマ模型や「放射線ラボ」という体験型の放射線を学ぶ展示エリアなどがありますが、このコミュタンの目打はなんといっても環境創造シアターでしょう。
直径12メートルの巨大な球形の建物の真ん中に入って、球形全体に映し出される映像を見ることができるシアターです。そしてこの目玉シアターで写される映像は、放射線が、地球ができたときからずっと存在していること、人間はどこにいてもずっとそれと共存していることなどがイメージで映し出されます。放射線被ばくや内部被ばくの危険性、健康影響のこと、甲状腺がんや原発事故での悲惨な状況などは一切出てきません。これはまるで巨大な放射線安全洗脳シアターです。これがなぜ「環境創造シアター」なのか全く理解できません。原発事故で、現在の地球上で自然には存在しない人工放射性物質を環境中にばらまいてしまっても、放射線は大したことはなく、新しい環境が「創造」されたとでもいうのでしょうか。
研究棟を特別見学
研究者と「高温減容化処理」や浪江町山火事の影響などについて突っ込んだやり取り
コミュタンで1時間程度見学した後に、研究棟での見学と研究者との対話の機会がありました。今回事前に見学を申し込んでいて、通常は非公開の本館と研究棟も見学しました。本館入口のすぐそばにはなんと、国際原子力機関(IAEA)の事務所がありました。入り口ドアに看板はありましたがここだけは中が見通せないドアでセキュリティ対策もしてありました。何か異様な感じです。研究棟には、3つの組織が入っており研究や環境モニタリングを行っています。日本原子力開発機構(JAEA)福島環境安全センター、福島県環境放射線センター、国立環境研究所福島支部の3つの組織です。それぞれの研究、監視、実験場所を見学しました。
特記的なことは、見学の後に30分でしたがそれぞれの組織の管理者、研究者と直接対話の機会を持つことができました。忙しいなか、丁寧に対応していただいた3組織の皆さんにも正直感謝いたします。
直接かかわっている研究者や管理者の方々がいたこともあって、予想以上に突っ込んだやり取りになりました。やり取りの詳細の全てをここで紹介はできませんが、話題の中で特記的なことを列挙すれば以下のようなものです。
①除染土の高温減容化処理の研究内容について:高温処理後のセシウム回収はHEPAフィルターで実施している。蕨平での環境省が進めている高温減容化処理とは独立した研究として進めている。除去率99.9%をめざしているが、この意味はセシウムを気化させて飛ばした後の溶融焼成物に残るセシウムが0.1%という意味で、気化したセシウムの回収時の漏れのことではない。
②浪江町山火事での放射能拡散についての報告書について:森林が燃えるとレボグルコ酸が出る。山火事後のエアダストフィルターの分析ではセシウム濃度とレボグルコ酸濃度との間に相関関係は見られなかったので山火事の影響ではないと考えた。これは放射性物質が無かったという意味ではない。こちらからはリネン吸着法で測定した結果を説明しました。この結果について興味があるということでしたので後日お送りすることを約束しました。
③高温減容化処理で出てくる副産物の濃度など:副産物(セシウムを気化させて回収した飛灰)の濃度は数十万ベクレル/kgになる。非汚染物の定義はクリアランスレベルと同じ100ベクレル/kg以下。8000ベクレル以下が非汚染物というかどうかについては、我々が言うべきことではないが、8000ベクレル以下が非汚染物とすると何の管理もなくどこでも使って良いということになってしまう。今回の8000ベクレル以下というのは管理された場所。公共の維持管理がなされる場所で埋められるというか使われるということなので非汚染物ということにはならないのではないか。
研究者なので意外とまともな対応でした。官僚答弁でなく技術的に正直に説明してくれたり、リネン吸着法など、こちらのやっていることにも興味を示すなどで、突っ込んだ議論ができましたし、今後のやり取りもできるベースが出来たので良かったと思います。
放射能汚染木材を燃やすバイオマス発電建設に反対
「大越町の環境を守る会」の皆さんの大歓迎を受けて交流
このツアーの最後でしたが最も大きな成果があったのが、大越町のバイオマス発電所建設予定地を訪ね、「大越町の環境を守る会」の皆さんと深い連携ができたことです。
「守る会」の皆さんの案内ですでに造成工事が始まっている建設予定地周辺を案内していただきました。造成予定地は大越町の高台にありますが、すぐ近くに集落が周りを取り囲んだ形になっています。数百メートルの範囲にこども園や小学校があります。
バイオマス発電誘致の話は、現市長が県会議員時代に決めて、計画予定地の周辺250mの住民に説明しただけで、他の住民に対しては一切説明がなかったそうです。後になっていきさつを知った皆さんが最も憤っているのが昨年9月に事業者が事業計画変更を申し出たことです。それはバイオマス発電所に原料木材を加工するチップ工場を併設すること、当初は線量の高い樹皮は燃やさないとしていたものを部位ではなく100Bq/kg以下という基準で全て使う、という変更でした。こうした放射能汚染木材の加工や焼却により周辺への放射能汚染の再拡散に繋がってしまうからです。
「守る会」の皆さんは四捨五入で平均年齢80歳ということですが、この市長のやり方に大変憤っていて意気盛んです。昨年末から木質バイオマス発電に反対する署名集めをはじめ、わずか数か月で総数5000筆以上の署名を集めました。大越町民署名者は2431名で大越町人口の半数以上とのこと。軽トラにマイクを付けた宣伝カーで町中を走り、一軒一軒ローラー作戦で集めたそうです。
現地を見て回った後、「守る会」の代表幹事である久住氏のお宅によばれてお茶をいただきながら交流と情報交換をしました。バイオマス発電の問題点、汚染木材を燃やすことの危険性などについて勉強したいことも一杯あるようで話題は尽きませんでした。今後も堅い連携を取りながらバイオマス発電を止めてゆこうとエールを交わしながら帰路につきました。
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